CITY POPとPHOTOGRAPHY

CITY POPとPHOTOGRAPHY

物心ついて音楽に興味を持つようになって最初に買ったレコードは何だったんだろう? そう、今ちょっと巷でブームになっているJapanese AORのひとつに数えられるグループ。杉山清貴&オメガトライブのレコードだった。

当時、僕は、まだ小学校5年生。音楽を聴くのも、「レコード」の時代だった。

わがままな一人っ子だった僕は、親に無理をいって、レコードもCDも聴けるコンポを買ってもらっていた。
けれども、音楽以上に衝撃だったのは、レコードのジャケットだったのだ!
しばらくして、CDも発売されてきたので、レコードではなくCDを買ってみたりもした。けれど、ジャケ写の魅力から離れられず、買っていたのはレコードばかり。

スクエア構図。映り込んでいるひとつひとつの物の配置を見ても、計算されたかのように美しく、何度も何度も写真を眺めたものだ。
当時の新進気鋭のフォトグラファーが撮影したのだから、当然のはずだった。

プロデューサーの故 藤田浩一さんの指揮のもと、作詞は康珍化さん、秋元康さん、有川正沙子さんなど、作曲は林哲司さんらが多くの曲を手掛け、思春期に差し掛かろうとしている少年の心を擽ったのは、詞でもあり、曲でもあり、ジャケットの写真でもあり、それらすべてがとってもグルーヴィーな世界を心に投げかけた。

年を重ね、田舎者の僕も、いずれはキラキラとしたオフィスに勤めるビジネスマンになるんだろう。そんな風に本気で思っていた。

それほどまでに、このオメガトライブのサウンド、もっと正確にいうならば、藤田浩一さんの世界観は、当時、少年だった僕のその後の夢を彩っていたといっても大げさではない。

「Farewell Call」っていう曲がある。その歌詞のような恋愛もして、仕事に打ち込んでいるんだろうと。

黙ったままの 真夜中の電話
古い JAZZが 流れてたすぐに君とわかるよ
遠いこの街 1人で暮して 仕事してる 僕のこともう待てないのだろう

杉山清貴&オメガトライブ「Farewell Call」より

それから片田舎の高校出て、上京、そして大学を卒業、大手外資系企業や都心の高層ビルで働いたこともあった。
仕事にも打ち込んで、いくつかの恋愛もした。

既にキラキラとしたバブルは弾けて、鬱屈とした空気が流れ出した時代。それでも、仕事だけは楽しかったけれども。

今となっては苦い思い出だけがキラキラとしている。

ところで、写真というものは、それ自体が相手に何らかの気持ちや感情を呼び起こさせる力を持っているし、意図して何かを呼び起こさせることも必要。
たとえば、都会のキラキラした世界観を際立たせるには、キラキラ感だけでは足りない。都会生活の裏で見えない、悲哀だったり、失恋だったり、悲しみだったり、そういう内に秘めたイメージを対置することも必要。
華やかさと侘しさ、それらを含めて、もっとカッコよく言えば、アーバンな香りがするような。アーバンという言葉が適切でないのなら、コントラストを感じられるなにかが存在していなければならない。

言葉って、難しい。

でも、言葉の壁を超えるために、写真があるのかもしれない。